The Knowledge Illusion

  • 著者: Steven Sloman & Philip Fernbach
  • 印象: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2020年6月

 

入山章栄氏の書籍で、心理学ディシプリンの経営学の参考書籍として紹介されていた本。

 

去年の年末に、1年の反省点を書いたのだが、そこに「自分だけで考え、実行したことは必ず失敗する」と書いた。本書を読んで、それが認知心理学的に裏付けのあることだと分かった。

 

自転車というのは、誰もが知っている乗り物で、誰もがよく知っていると思う。でも、「自転車の構造を図示して」と言われると、正確に描ける人はとても少ないらしい。

 

このように、人間は、自分は多くのことを知っているという過信を持っており、それをKnowledge Illusion (知の幻想) と定義している。この幻想によって引き起こされる問題と、それに対してどう対処すべきか、ということが解説されている。

 

Knowledge Illusionが生じる根本的な原因は、「自分が知っていること」と、「他人が知っていること」の区別が明確についていないことだ。専門家が新しい鉱石を発見した、というニュースを見るだけで、その発見された鉱石についてあたかも自分が知っているかのように感じるのだそうだ。

 

自分はそんなことない、と思うかもしれないが、「自分が知っていること」の境界線は意外と難しい。

 

例えば、ある機械の動かし方を習って、それを付箋にメモしたとする。その付箋をズボンのポケットに入れて、いつでも取り出して読めるとしたら、その機械の動かし方を「知っている」と言えるだろうか? その付箋がポケットではなくて、自宅の机にしまっているとしたら? 誰かにあげてしまったとしたら?

 

個人的には、自分の思い込みのために顧客に対してとんでもない提案をし、そのために年単位で甚大なトラブルを引き起こした経験があるが、その原因がまさにKnowledge Illusionであったことに今更ながら気づいて改めて愕然とした。

 

もう一つの重要な概念として”Division of cognitive labor”が解説されている。世の中の仕事は「自分が知らないことは他の誰かが知っている」という前提に立って、知的労働を多数の人間に分割することで成り立っている、というもの。「仕事はチームでやるもの」という当たり前の言葉なわけだが、Knowledge Illusionという概念から段階的に説明されると、この認識の重要性を改めて実感する。

 

上記の概念を中心として、「なぜ意見が似通った人たちと話をすると主張が先鋭化するのか」「なぜ教育だけで科学リテラシーはなくならないのか」といったトピックに言及した後、「かしこい人間とはどういう人間か」「かしこい判断をするにはどうしたらいいか」というトピックに対して筆者の意見が述べられている。ちなみにここでいうかしこいとは原文では”smart”という表記であり、日本語の「かしこい」が適切かあんまり自信がないが、他に良い言葉がないのでこの言葉にしておく。

 

以上の様な感じで、示唆に富む内容だった。4月に読んだ、「Predictably Irrational」と同様の構成で、章ごとに1つのトピックが説明されている。一つ一つは2-30ページくらいで、比較的読みやすい。

 

強いていえば、Predictably Irrationalの方が、表現にユーモアがあって面白かった。そういう意味で、3+ではなく3にした。