秘密

  • 著者: 東野圭吾
  • 印象: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2020年8月

 

ある事件をきっかけに、新しい家族として生きることになった夫婦とその娘 (小5) の話。

 

妻と娘がスキー旅行に行く途中で事故に遭い、妻は死亡、娘は意識不明の重体となる。幸運にも意識を取り戻した娘は、妻の意識を持っていた。つまり男は、娘の体と妻の意識を持つ人間と生活することになった。

 

いやいやそんなことあるわけ無いやろと思いながら読んでいると、その設定の非現実さは置いといて、「体が娘の妻」と生活する苦悩がリアルに迫ってくることに驚く。多分娘がちょうど自分の長女と同年齢であるという個人的な事情も関係していると思う。

 

例えば2人はセックスをすることができない。物理的には可能だが、できない。そういう行き違いが少しずつ大きくなって、男は「妻」の担任である女性教師に仄かな恋心を抱きはじめる。妻はそれを感じ取る。そういう描写が細かくされている。

 

「妻」は譲り受けた娘の人生を食いなく過ごすために、中学受験をし、医者を志す。それは主婦として生きていたときに押さえていた自己実現欲求を満たす生き方でもある。夫としてはそんな妻を応援しつつも、過去の妻との関係を否定されているような思いにとらわれるようになる。

 

「妻」が高校生になると、ボーイフレンドの影がちらつき始める。夫は通販で購入した盗聴器を電話機に仕掛け、罪悪感を感じながら「妻」の言動と行動を監視し始める。その行為が「妻」に見つかり、2人の関係が取り返しのつかない臨界点に達した時、「妻」に起こったある変化をきっかけに、2人の関係は収束していく。

 

中盤までは、2人の関係が少しずつ壊れていき、「さまよう刃」とか「人魚の眠る家」のような、誰も幸せにならない設定での話なのかと思っていたが、最終的には救わるところがあった。

 

本書のタイトルである「秘密」は、作品全体を通していくつか暗示されているが、最大の秘密が最後の数ページで明らかになる。