「教える」ということ

  • 著者: 出口治明
  • 印象: 1 (1-3)
  • 読んだ時期: 2020年8月

 

立命館アジア太平洋大学 (APU) 学長の出口氏の本。日経新聞で何度か大々的に広告が出ており、「日本を救う『尖った人』を増やすには」というサブタイトルに興味を持って読んだ。

 

日本生命、ライフネット生命の社長を経て、ダイバーシティに定評のある大学の学長になった著者のこれまでの経験を踏まえ、教育のあり方について幅広く論じたもの。

 

各項に書かれていることは分かりやすく的を射ている。なるほどーとためになることも多かった。

 

一方で、本全体を通して、何を伝えようとしているのか、というのが分からなかった。

 

まえがきにおいて、「教えるとは、真意を腹落ちしてもらうことであり、著者自身が腹落ちした『教えることの本質』を分かりやすく伝える」という本書の目的が述べられている。この目的は大変わかりやすいと思う。

 

しかしながら、第1章第1項で、「教育の目的」として、①自分の頭で考える力を養う、②社会の中で生きていくための最低限の知識 (武器) を与える という考えが提示されており、いきなり「教える」と「教育」の違いが何か分からず混乱が発生する。

 

しかも、上記①②を解説していく際、①は同第1項ですぐさま解説されるのに対し、②については、次項で解説されており、本項の題目が「国家、選挙、税金・・・についてきちんと教えることができるか」という、②とは全く関連のない見出しになっている。

 

最終的に、第1章は①②を説明した後に、「国家とは」「選挙とは」「税金とは」を我々に説明する構成になっている。国家、選挙、税金については腹落ちするが、「教育とは?」「教育と教えるの違いは?」について、腹落ちすることができないまま、第1章が終わる。

 

こんな感じで、各項のテーマが雑駁であり、かつ見出しと構成がとっちらかっており、「教えるとは」に対する腹落ち感を持てないまま読み終えた。

 

一つ一つのトピックに対する著者の考えは分かりやすく、大変ためになったが、何の本なのかが最後まで分からなかった。

 

「尖った人を増やすにはどうしたらいいか」については、高等教育のあり方という観点で著者の主張が述べられており、それによると、①スペシャリスト (変態) を育てるコースを高校に設置する、②女性、ダイバーシティ、高学歴をキーワードに新しい産業を育てる、③勉強せざるを得ない環境に身を置かせる、ことが有効、とのことなのだが、②については高等教育ではなく産業創出の話であり、構成がおかしいと思った。

 

「教育」をテーマに1冊本を作るという目的が最初にあって、関連する記述を寄せ集め、後づけ的に構成と見出しを作るという、ボトムアップ的な作り方になっているために、何の本なのかがわからない状態になったように感じる。