銃・病原菌・鉄

  • 著者: ジャレド・ダイアモンド
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2020年11月

 

2010年頃に発表された、人類の歴史に関する世界的なベストセラー。ずっと読みたいと思っていたが図書館で貸出中で読めず、この度ようやく上下巻を同時に借りれたので読んだ。

 

人類の歴史の中で繰り広げられてきた、ある人間集団による他の人間集団の征服について、これを可能とした直接的な要因である銃・病原菌・鉄を生み出した究極の要因が何なのか、ということに迫ったもの。

 

究極的な要因とは、つまるところ環境であり、栽培可能な植物種や、家畜化可能な動物種が相対的に多く存在した地域で、生産性の高い定住化生活が実現した結果、人口が増大し、かつ政治機構や工芸品などを専門にする非生産人口が組織内に存在することで、銃や病原菌 (に対する耐性) や鉄を持つ組織となり、他の集団を征服できる力を持ったというのが大まかな主張である。

 

究極的な要因と書かれているが、ではなぜユーラシアの特定地域に上記のような植物種や動物種が存在したのか? というところまでは踏み込んでいないが、これも結局のところ、地形や気候といった環境要因であることに変わりはない。

 

ただし、定住化生活が最初に始まった地域が必ずしも現在発展しているかというと、そういうわけでもない。例えばメソポタミア文明が起こった地域 (比翼三日月地帯) は、数千年前から環境変化が起こり食料自給率が下がったため、現在は生産性の低い土地になっている。また、中国も文明が早くに発展した地域の1つだが、土地が平坦すぎて、あまりにも地域内の結びつきが強くなったために、人間生活の多様性が失われ、保守的な文化が形成された結果、先進国に遅れを取っている (ただしこれは本書が出版された1998年の話であって、2020年現在はさらに状況が変化して、中国が覇権を握ろうとしている)。

 

技術の発展に関しては、環境との因果関係がどの程度あるかは未解明である。つまりどこに現れるか分からない天才によって新しい技術が生まれるのか、発明を得意とする文化のようなものが存在するのかは、本書の時点ではわかっていないとのことだった。

 

著者が伝えたいこととして、人類の征服、被征服というのは人間の能力や文化に起因する (例えば特定の人間集団が他の集団よりも先天的に優秀であるとか、優れた文化を持っているとか) ものではない、ということがあり、このような誤解を読者に与えないように冒頭で慎重な前置きをしている。

 

「文明崩壊」でもちょっと感じたことなのだが、全体的に説明がまどろっこしい。事実に忠実でありたいという科学者としての意思表示とも取れ、これはこれで大事だと思うのだが、ちょっと気を抜いて読むと、ある主張が2-3ページ後に否定されて混乱するという勘違いを誘発しかねないまどろっこしさがある。 

 

事例の紹介が多いのも、話の流れを妨げる、または著者の主張や伝えたい事実をわかりにくくする要因になっていると感じる。

 

例えば、過去に家畜化に成功した哺乳類の種類が非常に少ない (馬、羊、ヤギ、牛、豚 + 9種類) のはなぜか、という疑問を提示する際に、

「ユーラシアではイノシシを家畜化できたのに、アメリカやアフリカではペッカリーや野豚を家畜化できなかったのはなぜか?」

「ユーラシアではオーロックスなど5種の原牛を家畜化できたのに、アメリカやアフリカではバイソンやバッファローを家畜化できなかったのはなぜか?」

「ユーラシアではムフロン (羊の祖先) を家畜化できたのに、アメリカではビッグホーンを家畜化できなかったのはなぜか?」

と、3つの事例を挙げて疑問を畳みかけてくるが、2事例目くらいでお腹いっぱいになる。

 

大事な内容が膨大な事例に埋もれて、話の筋を見失うことが何回かあった。読むのにそれなりの集中力を求められる。僕に集中力がないだけかもしれない。個人的には、事例のところは注釈にするか、巻末に参考文献を乗せてもらう感じにしてもらえるとありがたかった。Work Rules!とか、ムーンショットとかは、この辺が考慮されて、本編がスッキリしていると感じる。

 

ちなみに、「病原菌」の本来の意味は細菌であるが、本書の中では病原菌の中にウィルスも含まれる。「病原体(Pathogen)」の方が言葉として適切なのではと思ったのだが、タイトルのインパクトを優先したのだろうか。

 

色々文句的なことを書いたが、全体としては面白かったし、紳士淑女は読むべき本だと思った。