ヒュウガ・ウィルス -五分後の世界II

  • 著者: 村上龍
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年4月

 

この世界と5分時空がずれている架空の世界を描いた「五分後の世界」の続編。この世界では日本は第二次世界大戦で降伏せず、本土決戦で焦土化した後列強によって占領されている一方、残存兵が日本の地下に潜り込んでトンネルを張り巡らせて形成した日本国地下司令部、通称アンダーグラウンドが世界最強の戦闘国家(人口26万人)としてゲリラ的な活動を続けている。

 

九州 (アメリカに占領されている) で謎の致死的なウィルス (発生した村の名前にちなんでヒュウガ・ウィルスと呼ばれる) が発生し、アンダーグラウンドに鎮圧の要請が届いた。アンダーグラウンドは政治的・経済的な条件と引き換えにこの要請を受けることとし、そこにアメリカ人ジャーナリストを同行させることにした。本書は主にこのジャーナリストであるコウリーという女性の視点で描かれる。

 

前作では執拗な戦闘シーンがかなりグロテスクに描かれていたが、本作ではそのような描写は少なく、一方でウィルスで死んでいく人間の様子が克明に描かれている。それよりも迫真なのは、地下トンネルの中でドブネズミのように暮らす浮浪者の姿で、ある人物によって語られるだけなのだが、精神的にも肉体的にも人間とは別の存在になってしまったような姿の描写が恐ろしい。浮浪者は真っ暗な中で暮らしており、光を当てると全身の痛みのためにか細い悲鳴を上げる。その悲鳴はその人物に寄ると「世界で残された最後の歌」なのだそうだ。どういうことやねん。

 

アンダーグラウンドの司令官であるナカジマによると、「ウィルスは何らかのメッセージを持っている」のだそうで、「ヒュウガ・ウィルスが持つメッセージとは何か」というのが本書のテーマになる。本書の後半でそのメッセージが示唆され、この本を読んだ後に、人類は、あるいは自分はどう生きるべきか、という問いに直面することになる。

 

コロナウィルスが発生したことで、改めて読み直した人も多いようで、コロナウィルスが人類に発しているメッセージは何なのか、というのを考えている人も多分いるのではと思う。僕はどちらかというと、戦闘国家として地下で誇り高く生きる日本人と、占領された旧日本で無目的に生きる日本人と、どちらが人間として幸せなのか、自分が生きるとしたらどっちがいいか、というのを考えた。