AX

  • 著者: 伊坂幸太郎
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年7月

 

グラスホッパー、マリアビートルに続く (?) 伊坂幸太郎の殺し屋小説3作目 (多分)。

 

主人公は兜と呼ばれる殺し屋で、妻を恐れる恐妻家の一面を持つ。兜は20歳くらいから既に殺し屋として活動してきた優秀なベテランで、表向きは文房具メーカーの社員であり、妻と高校生の息子がいる。家族と過ごす中で殺し屋としての生き方に疑問 (というよりも嫌気) を感じ、足を洗いたがっているが、仲介者から、婉曲な言葉で脅されており (足を洗うと家族に危害が及ぶ)、気が乗らないままいくつかの案件をこなしているうちに、友人と呼べるような人物と出会い、考えが少しずつ変わっていく。そんな感じの殺し屋の日常が一話完結形式で展開していくのだが、途中で兜は唐突に死に、そこから話が広がっていく。

 

伊坂幸太郎については、妻と結婚する前に彼女が持ってた「ラッシュライフ」を初めて読んだのが最初で、その後グラスホッパーを読み、いろんな種類の殺し屋が出てくる展開の疾走感が好きだった。伊坂幸太郎は複数の登場人物の視点を目まぐるしく変えながら話を展開させるのが得意な人だと勝手に思っているが、本小説に関しては基本的に主人公は兜 (ただし終盤はこの限りではない) ひとりであり、そのため場面転換の記号として伊坂氏が好んで使う印鑑も「兜」がほとんどであり、疾走感はあんまりない。その代わり、過去の2作ではあくまでも殺し屋は殺し屋としてしか描写されていなかったのが、今回は殺し屋の父親としての一面とかが描写されており、それはそれで面白い。

 

本書のタイトルは「蟷螂の斧」から派生したものであり、相手よりも圧倒的に弱い立場にいながら決死の覚悟で鎌を振りかざす人間とその描写が所々に出てくる (が、いうほど出てこない)。また兜は恐妻家なのだが、ある種のカマキリはメスがオスを餌にする場合があることが知られており、「蟷螂」には雌の後ろで食われないように慎重に身を隠すカマキリのオスのように、特定の人物 (主に妻) に頭が上がらない人間の男もテーマの1つになっていると思う。

 

ところどころに兜以外の殺し屋が、あんまり存在感のない感じで出てくるのだが、あれはマリアビートルに登場した殺し屋たちだと読んだ後に気づいたのだが、マリアビートルの内容を覚えていないので (展開に若干無理があり、グラスホッパーのほうが好きだった)、読んでいる間は、何の脈絡もなく変わった人物が出てくるなあという程度にしか思えなかった。マリアビートルを読んだ後に、その内容を忘れない間に本小説を読むと良いかもしれない。

 

伊坂幸太郎の小説に出てくる殺し屋の中で僕が好きな殺し屋は「押し屋」の槿 (あさがお) で、駅のホームとか交差点でターゲットを押すことで、電車や車で轢き殺すという、グラスホッパーから出てきている老舗の殺し屋で、本小説にも登場するが、上記のようにマリアビートルとの関係性維持を主目的とした登場の感じなので、あんまり存在感のない感じで登場し、尻切れトンボ的にいなくなり、ちょっと残念だった。

 

本作は”AX”から始まって、”BEE”、”Crayon”のようにアルファベット順に続いていくのだが、なぜか分からないがCのあとはDではなくEになっていて、何か意味があるように思うが、よく分からない。兜が途中で死ぬから”Die”を飛ばしてるのかなと思ったが、時系列的にちょっと合わない。