半落ち

  • 著者: 横山秀夫
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年8月

 

映画にもなった一昔前のベストセラー小説。読んで気づいたが、前に読んだことがあった。

重度のアルツハイマー性痴呆症である妻を扼殺し、2日後になって自首した警部の梶総一郎の「空白の2日間」の真相が、取調官、検事、記者、裁判官、刑務官の視点で語られていく。

 

妻の殺害については全面的に自供をしつつ、殺害から自首までの2日間の行動を一切黙秘する梶に、対峙する人間は反発や苛立ちを感じつつも、梶の真意に気づいたときに心が揺さぶられ、それぞれの立場で行動を起こしていく。

 

空白の2日間の真相もさることながら、梶が妻を殺害するに至った経緯が大変胸に迫る。これは小説のネタバレにはならないと思うので書いてしまう。

 

梶の妻はアルツハイマーを発症し、記憶が途切れ途切れになり、一日に何度も食事をしたり、自分の妹を母親と間違えるようになる。そのことに自分も薄々気づいており、記憶が消え、人格が失われることに恐怖を感じる。

 

白血病で亡くなった息子の命日に墓参りをしたその夜に、妻は突然騒ぎ出す。自分は今日、墓参りに行っていないという。梶が何度も説明しても思い出せない。妻は最愛の息子の命日を忘れてしまったことに絶望し、せめて息子の記憶があるうちに、せめて息子の母親として死なせてほしいと梶に懇願する。

 

梶の裁判を担当する藤木は、父親が梶の妻と同じくアルツハイマーを発症し、藤木の妻が介護をしている。藤木と同じく裁判官だった父親の面影はもはやなく、毎日のように散髪に行きたがり、こないだ行ったばかりだと止める藤木の妻に激昂し、ときに暴力を振るう。

 

裁判の判決を下す前日の夜に、藤木は彼の妻に、梶が起こした事件の顛末を話し、彼女に意見を求める。藤木の妻は、梶が優しい人間なのだという。なぜそう思うのか、藤木が問い詰めると、妻は泣きながらこう答える。自分であれば義父を殺すことはできない、殺すことはできないが、御自身で死んでくれればいいのに、と思うことは一度ではなかった。

 

月並みだが、日本が抱える高齢化社会の問題を端的かつリアルにえぐる物語だと思う。