TSUGUMI

  • 著者: 吉本ばなな
  • 印象: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年9月

 

高校生くらいのときに家に文庫版が置いてあり、たまたま読んでみたのだが全然面白くなく、それ以来吉本ばななの小説は敬遠していたのだが、こないだ読んだ「とかげ」が面白かったので、改めて読んでみた。とても良かった。

 

海辺の小さな町を舞台とした、病弱な美少女であるつぐみと、つぐみの親戚であるまりあと、町に引っ越してきた少年である恭一の話。

 

つぐみは生まれつき体が弱く、入退院を繰り返して育ち、そのために甘やかされて育った結果、外面はいいがとんでもなく傍若無人な少女に育ち、まりあはつぐみに振り回されて生きてきつつ、いつしかつぐみの理解者になる。まりあは東京の大学に進学し、町を離れるが、つぐみの両親が経営する旅館を閉めることになり、つぐみも町を離れることになったことから、最後の夏を町で過ごすために帰省する。いつもと変わらない (でも来年は変わってしまう) 町でつぐみと過ごしていたところ、その町に新たに建設されるホテルの御曹司である恭一と出会い、3人 (+つぐみの姉の陽子) で最後の夏を過ごす。

 

つぐみの人間性は、「食うものが本当になくなった時、あたしは平気でポチ (飼い犬) を殺して食えるような奴になりたい。(中略) できることなら後悔も、良心の呵責もなく、本当に平然として『ポチはうまかった』と言って笑えるような奴になりたい」という台詞に集約されている。

 

背表紙には、「少女から大人へと移りゆく季節の、二度とかえらないきらめきを描く、切なく透明な物語」と説明がされているが、まさにそのとおりの小説で、高校生のときに読んだときにピンとこなかったのは、自分が登場人物と同年代の少年であり、自分の冴えない高校生活を対比的に見せられているようで無意識に反発心を抱いていたからなんだろうなと思う。

 

小説を読んで思ったのは、幸福とは何か、というもので、僕自身は、幸福というのは相対的な概念であり絶対的なものではないと思っているが、もしそのようなものがあるとしたら、多分、そこにいる全員が、多分この瞬間は二度と訪れないだろうなという思いを共有しながら過ごしている瞬間のことを言うのだろうなと思った。あまずっぱい青春小説といってしまえばそれまでだが、そこにとどまらない普遍性みたいなものを内包した物語であると思った。

 

話の終わりに、つぐみからまりあにあてられた手紙が出てくるが、その手紙の中にスティーブン・キングの「デッドゾーン」という小説が言及されていたので、早速Amazonで発注した。

 

図書館で借りた本なのだが、何でかしらないが、一文のなかにある「死んだかあちゃん」という言葉に線が引いてあった。