海賊とよばれた男

  • 著者: 百田尚樹
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年1月

 

出光興産創業者の出光佐三およびその関係者の生涯をモデルにした百田氏のベストセラー小説。

 

百田氏の小説は、「永遠の0」を読んだことがあり、良い話だったのだが何となく特攻隊礼賛の雰囲気が強すぎるイメージがあって、他の小説を敬遠気味にしていたのだが、読んでみた。

 

基本的に事実に基づいて書かれているが、あくまでもフィクション小説であり、そのために主人公の名前も出光佐三ではなく国岡鐵造であり、また社名は出光興産ではなく国岡商店となっている。

 

まだ自動車も日本に数台しか走っておらず、石炭全盛の時代に、鐵造は石油の可能性を見出し、国岡商店を創業する。最初は大手企業の小売特約店として事業をスタートするが、鐵造の理想は、中間問屋のない生産元から消費者への直接販売であり、これを実現するために大地域小売業という事業形態を作り上げていく。

 

戦前〜戦後すぐの石油産業は、当時世界最大の産油国であったアメリカが支配しており、メジャーと呼ばれる数社がカルテルを作って市場を寡占している状態であった。殆どの日系企業は、メジャーに50%以上の株式を渡して、メジャーに支配される立場にあった。特に日本が敗戦してからは、日本を農業国にして自国製品の消費地になり下げてしまおうという欧米の意図があり、あらゆる工業製品の源である石油の日本国内での流通を、メジャーが管理していた。国岡商店は数少ない民族資本 (株式的に外資に支配されていない会社の意味) として、日本に石油をもたらすために、メジャーと、メジャーに支配される日系企業と、通産省との丁々発止を繰り広げていく。

 

人間尊重の精神のもと、日本の発展のためにあらゆる困難に立ち向かって、安価な石油を日本にもたらそうとする鐵造の人生は波乱万丈で壮絶である。戦前戦後の波乱万丈な人物を描いた小説としては、山崎豊子の小説が印象に残るが、それらの登場人物に勝るとも劣らない波乱万丈さである。個人的には、陸一心 (大地の子) が最も壮絶だと思うが、ビジネス的な壮絶さでいえば、ダントツで鐵造である。

 

一番のハイライトは、イランに自社タンカーを派遣して石油を直接購入する場面であり、これは日章丸事件として史実としても有名である。過去にイランを植民地支配していたイギリスが所有権を主張するイランの石油を、隠密裏に巨大タンカーを派遣して日本に持ち込んだというものであり、欧米諸国だけでなく日本の競合企業や通産省にさえも秘密に事を運ばなければならない中で、当時国交のなかったイラン行きのビザが全然下りない、担当者がコロコロ変わってイランとの条件交渉が全然まとまらない、チャーター予定だったタンカーが直前になって使えなくなる、取引に絶対必要な書類 (L/C) を発行できない、運河が浅すぎて船が通れない、帰り道でイギリスに拿捕されたら全てパー、というか最悪撃沈されるかもしれない、日本に持って帰ってからもイギリスの所有権が認められれば国内流通は無理、というあまたのリスクを乗り越えて、最終的に事業を成功させるわけだが、とにかくすげーなとか言いようがない。

 

小説は当然、鐵造目線なので、国岡商店と競合、対立する石油メジャーや通産省は敵役的な立場で描かれることが多いのだが、堺屋太一があとがきで書いているように、石油メジャーや通産省には、それぞれの立場の正義が多少なりともあったのだと思う。その立場から見ると、国岡鐵造という人物は悪魔的な存在だったのだろうなと思う。