世界地図の下書き

  • 著者: 朝井リョウ
  • 心に響いた度: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年4月

 

児童養護施設「青葉おひさまの家」で暮らす子どもたちを描いた小説。

 

両親を交通事故でなくした後、親戚の家で引き取られたが、馴染めずに施設に送られた小学3年生の大輔は、施設の一般のメンバーに迎えられ、同い年で気が弱い淳也、その妹の麻莉、ひとつ下の美保子、中学3年生の佐緒里と共同生活を送ることになる。色々ありながら3年が経ち、高校を卒業して施設を出ることになった佐緒里のために、今は開催されなくなってしまった「蛍祭り」を復活させるために、小学生の4人が色々頑張る。

 

当たり前のことだけど、両親のいない (もしくはいるけど事情があって一緒に暮らせない) 子どもにとって、施設で一緒に暮らす子どもが、唯一の家族のようなものである。一班の5人は、何かを企むときに、夜な夜な淳也のベッドに集まって小さい輪になり、コッソリ集めたお菓子を食べながら、色んな話をする。大輔は、5人で作るその輪が世界の中心のように思えて、ずっとこうしていたいと思う。

 

でも、一方で、5人にはそれぞれ、施設の外に親戚や両親、きょうだいがいて、週末に施設をでて宿泊したり、金銭的なサポートをしてもらっている。5人はいつか必ず、離れ離れになる。その離れ離れは、普通の過程で育った子どもが、進学なり結婚なりで親の元を離れることよりも、ずっと孤独なものなのだと思う。

 

物語は、ハッピーエンドでは終わらない。いじめっ子をやっつけたり仲直りすることもなければ、両親と一緒に暮らせるようになるわけでもない。ハードカバーの本の表紙である、5人が集まってどこかを見ているイラストを、小説を読んだ後で改めて眺めると、読む前とは違った感慨深さがある。

 

物語は、蛍送りを中心に展開されるのだが、一班の5人のストーリーも同時に展開されて、だんだんごちゃごちゃした感じになる。で、そのごちゃごちゃした展開が、蛍祭りの当日になって、唐突に帰結していくので、えっどういうこと? と戸惑っている間に最終ページを迎えてしまった。5人の物語を描き切るには、ページ数がちょっと足りなかったんだろうと思う。