模倣犯

  • 著者: 宮部みゆき
  • 心に響いた度: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年7月

 

女性の連続誘拐殺人事件にまつわる長編小説。

 

事件はいわゆる劇場型犯罪であり、一連の殺人事件に被害者家族やメディアを巻き込むことによって、自分の作品としての殺人を世間に公表し、認められたいという異常な欲求を持つ人物によって引き起こされる。

 

ハードカバー二段組の構成で、合計1000ページ以上もあるかなりな長編小説であるが、人物描写や背景描写がとても緻密で、間延びする感じはない。ちょっと出の登場人物の何気ない一言に対しても細かい心理描写がなされていて、これが蓄積されることによって、人間関係が重層的になっている。人物の生い立ちもかなり詳細に描かれていて、過去に育った町の店の名前とか、そんな感じのものがいちいち細かく描写されていて、リアリティと深みを感じる。

 

物語は、加害者、被害者、被害者家族、加害者家族、事件を取材するルポライター、偶然事故に関わることになった第三者など、多数の視点で展開される。中でも被害者家族、加害者家族が、犯人やメディアによって翻弄され、傷口をえぐられ、追い詰められていく様子が克明に描かれていて、彼らが経験する地獄に戦慄されられる。小説が発表されたのは2000年ごろであり、まだネットによるリンチ行為とか炎上案件みたいなものは存在していないが、週刊誌による心無い暴露とか、匿名の人間からの執拗ないたずら電話など、劇場型事件に巻き込まれる人間心理が予言的に描かれていると感じる。

 

小説に明確な主役というのは存在していないが、敢えてあげるとすれば、殺人事件の被害者の祖父である有馬義男と、一連の事件の第一発見者で、自らの家族を惨殺されたという過去を持つ塚田真一ではないかと思う。殺された家族は二度と戻ってくることはないという絶望な事実を抱えながら、犯人と世間に向き合い、自分の人生に折り合いをつけていく2人の生き方が印象的だった。

 

小説のタイトルがなぜ模倣犯なのか、というのは、読み進めると分かるが、小説のタイトルとしては最後までしっくりこない。こんだけ長編になるとタイトルつけるのも難しいんだろうなと思った。