蒼色の大地

  • 著者: 薬丸岳
  • 心に響いた度: 1 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年9月

 

海族と山族の対立を描く螺旋プロジェクトの明治時代編。日露戦争前が舞台で、日本海軍 (山族) に所属する新太郎および妹の鈴と、海賊 (海族) の一員である灯とが、海族山族の争いによって引き起こされそうになっている戦争を阻止するために色々と頑張る話。

 

まず螺旋プロジェクト全体の設定として、海族と山族とは本質的に相容れない人種であって、嫌悪感が強すぎて相手が見えなくても近くにいると感じられるくらいに相容れない、というものがあるにもかかわらず、鈴 (山族) と灯 (海族) とがお互いに惹かれ合っている、という本小説の設定が納得できない。一応、過去にこの二人の間に起こったある出来事がきっかけになっているような雰囲気もあるのだが、そのあたりの描写が乏しいので、単なるご都合主義の設定に見えてしまう。鈴と灯が本小説の中心であるだけに、大前提がしっくりこないので、当然小説全体としてもしっくりこない。

 

また、海族と山族との対立を見守るオブザーバー的な人種が存在するというのが、プロジェクトの別の設定としてあるのだが、この設定が全然活かされていない。たまにそれっぽい人物がでてきても、何かをするわけでもなく、またオブザーバー的な片鱗を見せるわけでもない。さらに、このオブザーバーの身体的特徴に近い感じの人物がでてくるのに、実はそいつは海族でも山族でもオブザーバーでもない一般市民だったりして、混乱を招く。

 

物語は、新太郎、鈴、灯の3者の立場で、視点を変えながら進んでいくのだが、入れ替わり立ち替わりが早くて、落ち着いて読めない。視点を変えていくことが伏線回収になっているようなところも特に無く、単に主役がぐるぐる回りながら物語が進んでいく感じで、せわしない。

 

海軍と海賊とが衝突する場面では、急に登場人物が増えるにも関わらずトントン拍子で展開されていく。途中で海賊から海軍に寝返る輩が出てくることも相まって、誰が何をしているのか、海賊視点なのか海軍視点なのか、ついていけないまま、いつのまにか新太郎が海に投げ出され、衝突は唐突にクライマックスを迎える。

 

タイトルも何か良くわからない。小説の中で誰かがぼそっとつぶやいた一言がタイトルになっていると記憶しているが、何を象徴したタイトルなのかも、もはやよく分からない。

 

上記のような感じで、全体的によくわからない話だった。

 

ひとつだけ確かなのは、この小説の中で最も不憫なのが、知らないうちに海賊に捕まって半殺しの目に遭いながら、一度も言葉を発することなく死んだり助かったりしていく、英国海軍の面々であるということだ。