熱源

  • 著者: 川越宗一
  • 心に響いた度: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2023年2月

 

日露戦争前後のアイヌの生き様を描いた小説。

 

誰のものでもなかった樺太に、いきなり乗り込んできて、自分の土地だと言い出して、武力を背景に土地を追われた後、未開人として蔑まれかつ哀れがわれ、頼んでもいないのに同化教育を施される、というのが、アイヌの人たちから見た日本人 (和人) の姿だ。

 

昔呼んだ司馬遼太郎の「アメリカ素描」によると、文明というのは、誰でも簡単に使える様式のようなものだ。知らない人間同士が生活を共同するために、文明は欠かすことができない。一方で文明は社会の個性とでも呼べる文化を破壊するものでもある。

 

この小説で書かれているのは超簡単にいうと文明と文化の衝突であり、またその衝突の中で葛藤する人間の生き様である。小説に出てくるアイヌの人々は、アイヌとして生きるために樺太に学校を建設して若者に文明を学ばせようとする。それは、文化を守るためにあえて文明の侵食を受け入れるという、葛藤を帯びた意思決定である。そして、その試みが、文明国であるところのロシア (およびソ連) と日本の戦争によって翻弄される。

 

樺太に学校を設立するために奔走した人物として、ポーランド系ロシア人であり、政治犯として樺太に収容されて、アイヌの村の尊重バフンケの娘であるチェフサンマと結婚したブロニスワフ・ピウツスキと、和人とアイヌの間に生まれた千徳太郎治は、実在する人物で、史実を元にしたフィクションであるということをこのレビューを書く際に知った。

 

ヤヨマネクフとキサラスイの、短くて儚い結婚生活の描写がいい。というかヤヨマネクフも実在する人物だった。