黄金を抱いて翔べ

  • 著者: 高村薫
  • 心に響いた度: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2023年4月

 

大阪で生活する癖のある男たちが、銀行にある金塊10億円分を大胆に盗もうとする話。

 

NHKラジオを聞いていたら、岸本佳代子の朗読番組があり、それは向田邦子の小説だったのだが、いい感じだったので、別の番組で朗読されている高村薫の作品を借りて読んだ。

 

題名と文庫本の表紙の感じからすると、伊坂幸太郎のギャング小説みたいに、洒落た会話が痛快なストーリー展開を織りなしていく感じに見えるが、全然そんな感じではない。金塊を盗むシーンは最終盤であり、犯行計画のシーンが物語の大半を占める。

 

リーダー格の北川を中心に、6人のチームで犯行計画が進む。北朝鮮からの脱北者(多分)とか、元左翼か右翼で公安に思想転向されたオッサンとか、全員がスネに傷を持ってる人間なので、計画中にとにかくいろんな怪しい人物が紛れ込んでくる。

 

盗んだ10億円は全員で山分けするので、一人あたりの取り分は2億円位である。犯行計画は、銀行周辺の電気系統を爆弾で全部ふっとばし、街が大混乱に陥っている間に銀行地下に忍び込んで金塊を奪う という、とんでもなく狂ったもので、リスクを考えるとどうやっても割に合わなさそうなものだ。犯行に参加する6人は、それぞれが持つ狂った価値基準に沿って、彼らなりの理屈なり感覚で、吸い込まれるようにして犯行に関わっていく。

 

犯行に関わる6人の全員が全員、計画を進める中で、社会的にも身体的にも精神的にも、たくさんのものを失う。失えば失うほど狂気の純度が増して、物語が澄み渡っていく感じがある。暴力であふれているが、暴力を振るう人間も振るわれる人間も、人間的な弱さとか脆さみたいなものがむき出しになっていて、何ともいえない切なさがある。

 

物語の中心が大阪で、途中、西名阪で三重の方に行ったりもするので、自分の生活範囲との重複があって、地図を見ながら小説を読んだりしてちょっと楽しかった。