リヴィエラを撃て

  • 著者: 高村薫
  • 心に響いた度: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2023年5月

 

元IRAのテロリストであるジャック・モーガンが、父親を殺した「リヴィエラ」というコードネームを持つ謎の日本人を探し求める話。

 

リヴィエラはイギリス諜報機関のスパイで、中国の重大な国家機密が記された書類を、その書類を持ち出した亡命者から奪い取って、中国に戻した張本人とされている。この国家機密を隠蔽したい人間と、世間に告発したい人間が、イギリスやアメリカの諜報機関にいて、世間の預かり知らぬところで謀略を尽くした争いが行われている。

 

ジャックの父親は、この亡命者の隣人であると同時に、アイルランド独立を目指すテロ組織IRAのメンバーでもあり、リヴィエラの差金によってこの亡命者を殺害し、また自分自身も秘密を守るために殺される。自らもIRAのメンバーとなったジャックは、事の真相を突き止めるために、リヴィエラの正体を探し求めるのだが、過去の重大な国家機密を暴露する行為でもあり、必然的に謀略と殺し合いに巻き込まれていく。

 

設定がとにかく緻密で、書かれていることの半分くらいは初見では多分理解できない。基本的には、イギリスにMI5とMI6という2つの諜報機関があり、ここにイギリス警察と、アイルランドのテロ組織であるIRAと、アメリカのCIAと、日本の警察が関わってくるという構図なのだが、これらの機関は対立したりお互いを利用しあう複雑な関係になっており、基本設定が既に難しい。また、同じ組織の中にも考えを異にする人間がいて、組織内外で裏切りと謀略が飛び交っており、とにかく難しい。そのへんを説明しだすとただの解説本になってしまうので、小説中では事態を把握している当事者の目線に立った心理描写から構図を理解するほかなく、よっぽどの007マニアとかでもない限り所見で把握し切るのは無理ではないかと思う。少なくとも僕には無理だった。

 

それでも僕にとってはこの小説は読み始めたら止まらない魅力があり、アメリカの書評風にいえばPage Turnerであって、それは緻密に描かれた戦闘シーンと、思いっきり際立った登場人物の個性によるところが大きいと思う。リヴィエラの秘密に関わる人間は次々に死んでいくのだが、その死に様に人間の矜持が凝縮されている。物語の発端は、機械や人形のように忠実に任務をこなすことだけが求められる兵士やスパイが、人間の心を持っているという矛盾から引き起こされていて、物語で描写されているのも結局そうした矛盾とか葛藤のようなものなのではないかと思った。

 

物語の終盤で、リヴィエラがある人物に対して事の顛末を盛大にネタばらしする場面があって、その後その話を聞いた人物は誰かに捕まって拷問をされまくるのだが、その後リヴィエラ本人は大丈夫だったのだろうか、という点が、読後も小さな疑問として残った。