• 著者: 馳星周
  • 読んだ印象: 2.5 (1-3)
  • 読んだ時期: 2023年8月

 

元長野県警の山岳救助隊である得丸が、白馬山嶺で偶然出会った大学時代の山岳仲間である池谷と、山中を逃亡する話。

 

池谷は、ある秘密が露呈して公安から追われる身となっており、得丸を脅迫して日本海までの逃亡を試みる。得丸は池谷に不信感をいだきつつも、かつて登山中に命を預けあった仲間である池谷を日本海まで連れて行くと約束する。

 

しかしながらその道中はとんでもなく過酷であり、猛吹雪の天候、謎の組織による追跡を、大学の頃から見る影もなくなった体力なさすぎの池谷を助けながら (最終的には担ぎながら) 登山するという、ヘレン・ケラーも顔負けの三重苦状態で、山中を何日もさまよい続ける。

 

ところどころで登場する、得丸、池谷の親友であり、若くして遭難した天才的な登山家である若林と、その妹のみどりが、吹きすさぶ吹雪の中に朗らかな風を送り込んでくれる。特にみどりは、井上靖の「氷壁」に登場するかおると同じような、映画化するなら綾瀬はるかか新垣結衣か広瀬すずかとかに演じてもらいたいような、芯の強さと母性を兼ね備えた女性として描かれている。

 

迫真に迫る登山の描写と、池谷と行動をともにする中で諦めていた登山家としての夢を取り戻していく得丸の心理描写が大変面白く、とても心に残る小説だったのだが、自分を躊躇なく殺そうとしてくる追手を、何度も山中に誘い込んで危ない目に合わせておきながら、相手が山中で死にかけるたびに助け出してしまう (そしてその後必ず窮地に陥ってしまう) 得丸の山岳救助体としての謎の使命感は、最後まで完全に共感しきることができなかった。