• 著者: 姫野カオルコ
  • 読んだ印象: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2024年4月

 

シンデレラは幸せな女性の象徴として認識されているが、実は彼女が継母や義姉に対して行った仕打ちは、シンデレラが彼女らにされていたことそのものであって、そんな人生を幸せと呼べるのか、そんな人間を幸福な女性の象徴として敬うべきなのか、という疑問を持った著者が描いた、清らかで美しい倉島泉という女性の人生についての話。

 

倉島泉は、夫ではない男との間にできた子供かもしれないと、母親にかすかな疑いを持たれながら生まれ、1年後に生まれた見目麗しく病弱な妹の影で、多くの愛を注がれること無く育った。笑うタイミングが少し遅く、表情が鈍いせいで、笑っているところを人に見られる機会がなく、他人からは無愛想な少女として映った。成人してから、親戚の旅館で働くようになり、一時は結婚して女将になるが、アルバイトとしてやってきた女性に夫と女将の座を明け渡し、自らは旅館の一隅にあるハーブ園で野菜を育てながら静かに生活している女性である。

 

この人生の何がシンデレラやねん、と思うのだが、読んでいくうちに、泉の不思議な幸福感に引き込まれる。

 

倉島泉は、「彼女は頭が悪いから」の美咲、「悪口と幸せ」の顔の大きいモデルの純粋な部分を凝縮したような女性として描かれていて、幸せとはなにか、ということを深く考えさせられる。