約束された場所で

  • 著者: 村上春樹
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年4月

 

地下鉄サリン事件の被害者にインタビューしたノンフィクション「アンダーグラウンド」の続編という位置づけで、オウム真理教の信者にインタビューしたノンフィクション。

 

インタビューされている(元)信者は、地下鉄サリン事件には直接的に関わっていない、いわゆる普通の信者である。地下鉄サリン事件をきっかけに脱退した人もいれば、そのまま所属している人もいる。

 

地下鉄サリン事件や麻原彰晃についてどう思うか、といったことも語られているが、どちらかというと、なぜオウム真理教に入ったのか、そこで何をし、何を得たのか、といった、その人の半生的な内容が語られている。

 

僕の勝手なイメージだと、オウム真理教に入信するのは、世の中に上手く適合できていない、いわゆる社会不適合な人たちだと思っていたのだが、実際にはそうでもなくて、社会の中で上手くやっているような人でも、何かのきっかけでオウムに興味を持ち、関わるようになっていったということだ。

 

もちろん、大なり小なり世の中で生きづらさを抱えていて、それを克服する手段として解脱に興味を持ち、オウムに興味を持った、というのは共通した特徴であるとは思うのだが、誰でも生きづらさは抱えているし、解脱という概念に惹かれたこともあると思う。だからオウム真理教の信者というのは、一般の人と全然違わないのだろうなと思う。

 

生い立ちとか事件後に組織に対して持っている感情は様々だが、共通している考えとしては、以下のような感じだった。

 

  • インタビュイーである(元)信者にとって、生きていくために解脱が必要だった。

  • オウム真理教の活動は解脱を真摯に追求する実践的で精力的な組織であり、だから入信・出家した。

  • 自分にとっての麻原彰晃は、解脱のために力を貸してくれる心強いグルであり、殺人ガスをばらまくテロ行為の首謀者としての麻原とは、同じ人物とは思えない (※サリン事件の犯人がオウムであるということを否定しているわけではなく、人物像が一致しないで戸惑っているという感じ)。

  • オウムに入信したことに後悔はない。そこで得たものは人生の大なり小なり糧になっている

 

生きづらさを抱える人々に居場所を与えるという点で、オウム真理教というのは社会において一定の役割を果たしていたと感じる。だからこそ、なぜそんな組織がテロ行為をするにいたったのか、また、なぜこのような居場所が新興宗教という以外の形で世の中に存在できない (できなかった) のか、という点を、我々は考えなければならない。著者が本書を上梓した理由も、そんなところにあると思う (というか、まえがきかあとがきに、そういった内容が書かれていた)。