キッチン

  • 著者: 吉本ばなな
  • 印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2021年9月

 

吉本ばななの小説家としてのデビュー作に近い3作品が収められた小説集。

 

1つめの「キッチン」は、両親と祖父母を亡くした女子が、同級生の家に住み込む話。2つめの「満月」は、キッチンの続編で、住み込んだ同級生の母親 (父親でもある) が死んでしまう話。「ムーンライト・シャドウ」は、恋人を亡くした女子が、その恋人の弟と一緒にその事実に立ち向かう話。

 

上記あらすじで分かるように、どの作品でも、登場人物にとって大切な人間が次々に死ぬまたは既に死んでいる。登場人物はその喪失感と向き合いながら生きている。

 

あとがきの出だしで、吉本ばなな氏はこう書いている。「私は昔からたったひとつのことを言いたくて小説を書き、そのことをもう言いたくなくなるまでは何が何でも書き続けたい」。

 

著者が言いたいたったひとつのこととは、超乱暴にいってしまうと、幸せとは何か ということであるように思う。で、幸せを語るために、喪失と再生の物語を書いているように思う。幸せとは何か ということに対する考え方のアプローチが自分とは全然違う点が新鮮であり、彼女が文壇に登場した時、その新鮮な感覚と思考に感銘を受けた小説家のおじさん達の気持ちが分かるような気がする。