The Dead Zone

  • 著者: Stephen King
  • 印象: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年3月

 

吉本ばななの小説「TSUGUMI」の中で、つぐみが読んでいた小説。500ページ近い長編小説で、去年から読んでやっと読み終えた。

 

主人公であるジョン・スミス (以下、ジョン) は、あるときに車の交通事故に遭って昏睡状態になる。4年後に奇跡的に意識を取り戻すと、父親は彼の病院代に金を使い果たし、母親は奇蹟を願うあまり宗教にはまって頭がおかしくなり、恋人は別の男と結婚して子供がおり、あげくに自分はやせ細り靭帯も縮んでまともに歩くこともできない体になっていた。ただ、その代わりにといっては何だが、「人とかモノに触るとその人物やそのモノにまつわる人物の秘密を知覚できる」という超能力的な能力を獲得していた。

 

あるきっかけで超能力が人に知られ、畏敬の対象になると共に恐怖の対象にもなり、孤独な生活を送る中、自分が住む町で連続殺人事件が起こり、その真相解明のために事件に巻き込まれていく。

 

キングの小説で僕が好きなところは、超能力的な現象をリアルに社会に溶け込ませるところだ。本小説の場合、超能力とは主人公のサイコメトラー的な能力であり、アニメであればこの能力で主人公はスーパーヒーローになれるはずだが、キングの小説で描かれるのは、超能力を持つがゆえの孤独と葛藤である。

 

例えばジョンは自分の主治医が幼い頃に母親と生き別れていると聞き、主治医と握手したときに、その母親が実は別の国 (確かキューバ) で生きていることを知覚する。ジョンは主治医のためにそれを本人に伝えるのだが、主治医は既に新しい人生を歩んでいる母親 (別の人と再婚して子供もいる) の人生を狂わせることを恐れ、母親に自分の存在を明かすかどうかで苦しみ、ジョンに怒りの矛先を向ける。

 

また、ある看護婦がコンロの火を消し忘れていることを知覚し、彼女に家に帰るよう伝えるのだが、当然信用されることもなく、強引にナースステーションに向かい、電話を借りて消防署に連絡する。看護婦は火事を防ぐことができたことに感謝をしつつも、ジョンの能力に恐怖する。

 

そんなことが積み重なって、誰もが彼に触れられることを恐れ、ジョンはいつしか孤独になる。

 

こんな感じで、超常現象そのものよりも、それを間近で見た人の恐怖や違和感を克明に描くことによって、自然に読者を物語の世界に引き込んでくる。

 

もう一つの好きなところは、恐怖の描写だ。恐怖の対象物や、象徴的なモチーフを、繰り返し、執拗に描くことによって、ボディブローのように恐怖を積み重ねていく。

 

ジョンの元恋人であるサラが、彼の不思議な能力を初めて目の当たりにする場面 (狂気じみた目でハロウィン祭りのルーレットを当てまくる) では、ジョンがサラを迎えに行ったときにかぶってきたジキルとハイドのお面が執拗に描写されることによって、彼の狂気が際立っている。

 

人間が恐怖するとき、その現象そのものよりも、その場面に存在していた象徴的なモチーフみたいなものによって恐怖が増幅されることがあると思う。そういうのを著者は上手く使っているようにおもった。

 

最後の1つは、恋愛描写が素敵なところだ。サラは、ジョンが目覚めたときには既に別の男と結婚しているのだが、一度だけサラがジョンの家に遊びに来る場面があって、そのときの二人のやり取りが、すごくよかった。

 

他人の未来が見えたとして、それが幸せなものであれば、その人に伝えようが伝えまいが、何の問題もない。その未来が破壊的なものであった場合に、もし自分の行為によって、その未来を変えることができるとしたら、自分は何をすべきなのか、というのが、ジョンの根本的な苦悩である。

 

最終的に、彼は、多くの人間を死に至らしめる (という未来を彼が知覚した) 人間に出会い、この未来を変えるために、苦悩した挙句に、ある行動を起こす。

 

タイトルであるDead Zoneとは、ジョンが人やモノに触れたときに知覚の中にぽっかりと存在する、読み取れない空白地帯のことなのだが、これが結局何だったのかのいうのが、小説の最後に、この事件の顛末と共に語られる。

 

Kingの小説はこれまでに、Different Seasons、The Green Mile、11/22/63を読んだ。敢えて順番をつけるとすれば、1番が11/22/63で、本小説はそれの次に面白かった。