何者

  • 著者: 朝井リョウ
  • 心に響いた度: 3 (1-3)
  • 読んだ時期: 2022年4月

 

まだ何者でもない大学生が、何者かになろうともがく過程を、就職活動を中心とした大学生活によって描写した物語。

 

本書の主人公的な位置づけである拓人は、就活の狂騒を一歩後ろから引いた感じで眺めつつ、かといって、就活を否定する斜に構えた人間とも一線を画す、割とフラットな感じの大学生であり、読者の感想を物語中で代弁してくれるような存在でもある。

 

その拓人の本質が、小説のラストで明らかになっていくのだが、そのとき読者は、自分が持つ拓人的な何かを間接的に暴かれることになり、戦慄する。

 

自分も、こんなほとんど誰も見ないようなブログをせっせと続けている自分の痛々しさに向き合うことになった。

 

とにかく人物描写がリアルですごい。登場人物の人物像が、台詞やツイートの一つ一つから、匂い立つように浮かんでくる。こういうやついるよな、というところを絶妙についた台詞回し、ツイート回しがすごい。

 

そして、あの就職活動特有の、謎の焦燥感が、ものすごくリアルに描写されている。薄っぺらい経験を根こそぎかき集めて脚色されたエントリーシートを書く虚しさ、面接を通して脚色された自分が本当の自分であるかのように錯覚していく陶酔感、友達の内定を表向き喜びながらその内定先の悪い評判を探すことで安心しようとする悪意とかが、登場人物の痛々しいツイートとともに、迫ってくる。

 

現代小説を書く上で、スマホはもはや無視できない小道具だが、あんまりうまく活用された小説が無かったように思うのだが、この小説では、高性能コミュニケーションツールとしてのスマホが絶妙に良い感じで描写されて、小道具としてとても良く機能していると感じた。