読書感想: 宮本武蔵
宮本武蔵
- 著者: 吉川英治
- 心に響いた度: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2022年7月
多分世界で一番有名な宮本武蔵の長編小説。
数年前に、司馬遼太郎が書いた宮本武蔵の小説を読んだことがある。それを読んだところによると、宮本武蔵の二天流は、千葉秀作の北辰一刀流と対比的に描かれていて、武蔵だけが体得できる唯一無二の超属人的流派であり、それを確立した武蔵という人物が、勝ちへの執着を凄まじく持ち、一方で人並み以上の俗世的な (士官という) 欲望も持つ、たいへん気難しい人物として描かれていた。
あと、バガボンドを断片的に読んだことがあり、少し読み進めて、バガボンドの原作的な位置づけなのだろうと思ったのだが、もう少し読み進めると、全然違う展開になってきたので、あれはあれで独自の作品なのだと知った。
暴力的な野人であった武蔵が、沢庵によって人間性をひらき、日本各地を放浪しながら剣の道を極める。吉岡清十郎や宍戸梅軒など、バガボンドにも登場する武術の達人が登場するが、試合や斬り合いのの描写はそんなに多くなく、強さとはなにか、剣とはなにかに迷い続ける武蔵の内面描写と、それぞれの理由で武蔵を追いかける人物 (お杉、又八、お通)、および、佐々木小次郎の描写が物語の骨子になっている。バガボンドでは奔放な聾者として描かれていた佐々木小次郎は、本小説では卓抜した剣技でもって処世を遂げる志を持つ、司馬遼太郎における武蔵に近い感じの人物として描かれている。
お通は武蔵に恋い焦がれていて、武蔵をいつも追いかけているのだが、悲しいくらいにすれ違いがあり、恋が叶わない。すれ違いといえば、小説を追うごとに増えていく数々の登場人物は、偶然やすれ違いで関係ができていって、それが物語の面白さにもなっているのだが、いやこれはさすがに偶然性がすごくね? と思うようなこともしばしばある。
佐々木小次郎は、武蔵の宿敵であり、物語の構成上、嫌な人物として描かれているのだが、終局の、武蔵との試合を迎える数日前からの描写で、人間らしい描写がなされており、後味のよい感じになっている。
一方で、武蔵を目の敵にして追いかけ回すババアのお杉も、終局になり、ある事件をきっかけに心を入れ替えるのだが、展開がちょっと唐突であり、手のひらを返したような態度が鼻持ちならない気持ちにもなった。