読書感想: シーソーモンスター
シーソーモンスター
- 著者: 伊坂幸太郎
- 心に響いた度: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2022年8月
本質的に相容れない人間同士の対立を描いた小説。「海族と山族の対立」をテーマとして、原始時代から近未来にわたっての物語を複数の小説家が綴っていく「螺旋プロジェクト」の一部である、ということは本を読みながら知った。
海族と山族というのは架空の設定で、原始時代に海で暮らした「海族」と、山で暮らした「山族」という人種がいて、この2つの人間種族は根本的に相容れない存在であり、会えば必ず対立してしまうというもの。いっぽうで、その対立や争いこそが、文化とか文明を発展させる機動力になっている といった主題になっている。
2編が収録されていて、小説タイトルの「シーソーモンスター」はバブル前の日本で暮らすある嫁姑に関する話で、「スピンモンスターは」近未来 (2050年くらい) の日本で配達人として働く男の話。
シーソーモンスターは、人間の対立を嫁と姑の問題に集約したのが著者らしくて面白い。また、冷戦時代のソ連とアメリカの対立も、人間の対立として物語の重要な設定になっていて、入れ子構造になってる感じも面白い。
スピンモンスターが面白いのは時代設定で、デジタル化が進歩した結果、ネット上にはフェイクやでたらめがはびこっていて、あるとき発生した大停電によってサーバーのデータがぶっ壊れたりして、デジタルからアナログへの回帰が始まっているという点が面白い。小説の中心人物の一人である水戸直政の職業は、アナログ情報をネットに履歴が残らない手段で相手に届ける「配達人」である。小説を書き始めたタイミング的に、トランプ大統領が登場した時期だから、当時の風潮から着想された設定ではないかと思うが、読んでいるうちに、あながちこれはあり得る未来かも、と思わされる。
著者の作品の特徴である周到な伏線は本小説ではあんまり見られず、全体的に静かな展開に思えた。これは螺旋プロジェクトの、複数の作者が同じ主題で小説を書くという性質上、伏線が作品群全体にわたって張り巡らされているからだと思われる。