読書感想: Y
Y
- 著者: 佐藤正午
- 心に響いた度: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2022年12月
Snow Manつながりで知った佐藤正午の小説を読んだ。
ネタバレをしないと感想がかけなさそうなのでネタバレするが、ある列車事故で大切な女性を失った男が、なぜかわからないが、列車事故の直前にタイムスリップできるようになって、その日から生き直す話。
タイムスリップものは、設定の辻褄が合うかどうかが妙に気になってしまうのだが、本作における設定は、「過去の自分に記憶を持ったまま戻れる」というもの。タイムスリップ前にいた世界では、タイムスリップした瞬間に死んだことになっている。なので、パラレルワールドで生き直すみたいな、異世界転生に近い感じの設定になっている。タイムスリップの設定としては、かなり羨ましい部類に入るのではないだろうか。
で、男は、過去に戻って、元いた世界で死んだ女性を無理やり電車から下ろして、命を救うのだが、何かを救うためには代償がつきものなのが世の常であって、新しいパラレルワールドにおいて、男はそれなりに苦悩することになる。
とりあえず僕が一番気になったのは、男がタイムスリップ後に行ったビジネスのことだ。男は未来を知ってるので (一般市民を列車事故から救ったくらいでは世界は大きく変わらないので、大きな歴史の流れは元いた世界とほぼ同じ)、やりたい放題なわけだが、それにしても金儲けの描写が雑に感じた。
男の独白によると、彼は企画会社みたいなものを作って、未来に出てくる商品に関する特許をとったり、未来にヒットする映画の脚本を売り込んだりして収入を得た、ということになっている。
いくら未来を先取りできたとしても、特許で儲けるのはそんなに簡単ではないだろうし (素人が2-3個くらい特許書いたところで、知財守れるか?)、また、脚本を売り込むにしても、どこの馬の骨かわからない男が書いた脚本に、まともな会社が興味を持つとは思えない。存在としては、「あれは俺が昔から思いついてたやつなんだ」みたいな感じで飲み屋でイキってるオッサンと大差ないはずであり、そんなやり方でホンマに金儲けできるんか? という点が、どうしても納得できなかった。ま、タイムスリップしたことないから、検証の仕様もないのだが。
タイムスリップをテーマにした小説として、Stephen Kingの11/22/63を読んだことがあるが、こちらの場合はスポーツベッティングで生計を立てていて、ずっと現実味がある。いくら結果を知っているとしても、あまり露骨に当てすぎると不審がられるので、どこでどれだけ賭けるか、というのが、非常に面白い心理描写になっていた。
また、途中、男の不倫相手 (男は独身だが、女性が既婚者) が、突然、映画館でこっそりとセックスをすることに妙に関心を持つのだが、その顛末の意味がよくわからなった。