読書感想: 末裔
末裔
- 著者: 絲山秋子
- 心に響いた度: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2023年1月
妻を病気で亡くした後、その気持ちを精算できず、妻の遺品にまみれたゴミ屋敷に住む58歳の富井省三が、ある日突然家から閉め出されて、放浪する話。
省三は、物理的にも精神的にも経済的にも、誰にも依存せず、誰にも依存されずに生きている。これは大変孤独である。この孤独は、妻の突然の病死によってもたらされた。2人の子供との関係は、妻を介してかろうじて保たれていたものであり、妻の死によって、その関係は崩れてしまった。
で、省三は、いくつかの不思議な出来事を通して、自分の先祖と関わることになる。その関わりを通して、省三は再生する。再生とは、妻への未練を精算することであり、未練を精算するとは、特異な死者であった妻を先祖という不特定多数の死者に迎え入れることである。また、再生とは、未来への希望を持つということでもある。
淡々とした語り口で物語が進むので、最初は中年オヤジの壮絶な孤独を噛み締めて読んでいたのが、気づかないうちに、省三の気持ちが晴れやかになっている。そこが面白い。
17年後に省三と同じ境遇になるかもしれない自分としては、前半の孤独な描写は身につまされるとともに、彼が再生していく描写に希望を感じた。