読書感想: 火星に住むつもりかい?
火星に住むつもりかい?
- 著者: 伊坂幸太郎
- 心に響いた度: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2023年3月
火星への移住を目指す話とかではない。火星は小説に全く関係がない。
「平和警察」という、一般市民から危険人物をあぶり出して、公衆の面前でその危険人物をギロチン処刑する警察組織が存在する架空の日本において、平和警察と彼らに危険人物とみなされて追われる
平和警察は現在の魔女狩りみたいなもんで、危険人物を発見するというよりは、誰でもいいから人物をでっち上げて、でっち上げた人物に取り調べという名の過酷な拷問を課し、自白を強要して危険人物に仕立て上げ、処刑を公開することで民衆に恐怖感情を植え付けるといった危ない組織である。多分、もともとは崇高な思想の元に作られた組織が、サディストによって歪められて魔女狩りのような組織になってしまったものと思われる。
話の本筋は、突然現れた平和警察に立ち向かうツナギ姿の男と、平和警察の対峙にある。男は平和警察に連行される人や、取り調べ (拷問) を受ける人を助ける。その男はゴルフボールみたいな謎の武器を持っている。
物語の設定としては物騒で、拷問のシーンも描写されているが、平和警察側の曲がりなりに持っている正義感がところどころ描写されていて、死神の浮力にでてきたような完全に狂ったサイコパスが出てきたりはしないのと、伊坂幸太郎の語り口が軽妙なこともあって、そこまでの暗さは感じない。、死神の浮力の方がよっぽど闇が深いと思う。
大小様々なたくさんの伏線が貼られて、ラストで一気に回収するというのが伊坂小説の醍醐味で、今回もいろんな小話からスタートするので、これ伏線回収どうすんねんと思いながら読んだのだが、思ったより回収されず放置される伏線が多かった。伏線が多数かつ精密すぎて僕が気づいていないだけかもしれない。平和警察とか、ツナギ男の武器とかの見慣れない設定の中に、たくさんの人物が登場しては消えていくので、あれこの人って最初に出てきた人と同じ人だっけ? とか混乱しながら読んだ。
あんまり女性が出てこない。伊坂小説の女性は結構好きなのでちょっと残念だった。
タイトルの火星に住むつもりかい? は、言いたいことも言えないこんな世の中に愛想が尽きるのならいっそ火星にでも住むしかないんじゃね? でもそんなことできないから行動を起こして物事を変えるしか無くね? といった感じの、ある登場人物が放つメッセージである。