貝に続く場所にて

  • 著者: 石沢麻依
  • 読んだ印象: 1 (1-3)
  • 読んだ時期: 2023年7月

 

ゲッティンゲンに住む私の元に、東日本大震災で海に消えた野宮(の幽霊)が訪ねて来たことをきっかけに、震災の記憶を少しずつ蘇らせていく話。

 

野宮は幽霊であるが実態がある。野宮の来訪をきっかけに、街に不思議な出来事が起こり始める。街に散在する太陽系の惑星模型について、過去に撤去された冥王星の模型がどこからとも無く現れ、街外れの森から、様々なものが掘り出される (トリュフ犬によって発掘される)。これらは私の友人たちが過去に失った人々のモチーフである。そして、かつてゲッティンゲンに住んでいた物理学者の寺田寅彦が登場し、街は時間的な重層さを表し始める。そんな街の中で私は野宮を失った事実と少しずつ向き合っていく。

 

と言った感じであらすじを書いてみたが、自分で書いてもよくわからない。僕が理解するには文章が高尚で難解だった。

 

小説の舞台は、コロナウィルス感染がちょうど始まった2020年の夏頃で、ゲッティンゲンは1度目のロックダウンが解除された直後である。コロナ感染という設定は、ところどころ人々がマスクをつけたり外したりするといった描写がある程度で、小説内でほとんど生かされておらず、今となってはコロナ感染の設定を小説に盛り込んだ意味はよくわからない。ただ、実際にコロナが蔓延し、ワクチンもなく、日常を取り戻せる見通しがまったくなかった出版当時の状況を鑑みると、このような静謐な小説を読むという行為は、当時の人々にとって少なくない意味があったかもしれないと思う。