読書感想: 冷血
- 著者: 高村薫
- 読んだ感じ: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2024年6月
裏求人サイトで知り合った2人の男が、いきあたりばったりの強盗を行った結果、完成な住宅街に住む4人家族を皆殺しにするに至った事件を、高村小説の準レギュラー的な存在である孤高の警察官、合田雄一郎が処理していく話。
2人の男の犯行は極めて杜撰であり、証拠隠滅を図るつもりもなく、逮捕後もあっさりと事実を認定する。ところが、殺意と動機がはっきりしない。取調べでは、「何となく」「分からない」「覚えていない」を繰り返す。事実を隠したり、嘘をついているわけではなく、当の本人も本当になぜ殺人に至ったか、分からない。精神的におかしいわけでもない。鬱屈した毎日に辟易して、なんとなく強盗行為を繰り返した結果、4人の人間を殺すことになったという、理解し難いが単純な犯罪なのだが、殺人が認められるためには殺意と動機を明確にする必要がある現代社会の司法制度において、2人を極刑にすることは簡単なことではない。
当の本人も分からない殺意や動機は、その気になれば本人の供述や状況証拠をうまく組み合わせれば、何とでも作り上げる (でっち上げる) ことができる。合田は、殺人を犯したという事実そのものだけでは人間を裁けない司法制度に違和感を感じつつも、当の本人もよく分かっていない殺意や動機を明らかにすべく、誰よりも真摯に捜査を進める。誰からも求められていないその行為 (検察はさっさと死刑を確定したい。被告は何も考えていない) に、自身の心を少しずつすり減らしつつも、いつのまにか合田は2人の男と不思議な関係を築いていく。
小説の冒頭で、皆殺しにされる一家の様子が描かれているのだが、いつもと変わらない日常と、事件後の凄惨な姿のギャップが凄くて戦慄する。