• 著者: 高村薫
  • 読んだ感じ: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2024年7月

 

妻に先立たれた古希の男の、田舎での農業暮らしを淡々と綴った話。

 

妻の昭代に先立たれ、一人で米作りをして生活する上谷伊佐夫の暮らしは孤独であり、昭代の影がいつも見え隠れしている。そんな伊佐夫のもとに、大雨の影響で田んぼに住みついたナマズ、疎遠な娘の一人娘、夜逃げ同然に里帰りした双子の妊婦、昭代の妹で昭代と瓜二つの久代、親戚が確信犯的に捨て置いたチワワなどが現れては消えていき、伊佐夫は彼らとの関わりを通して、必ずしも順調ではなかった昭代 (と一人娘の陽子) との過去に、少しずつ折り合いをつけていく。

 

物語は、目に見えない速度で成長する稲の生態のように淡々としており、クライマックスらしいものもないまま突然終わりを迎える。だが伊佐夫の変容もまた稲のように、目に見えない速度で着実に変化しており、その緩やかな展開が読んでいて何となく癒やされる感じがした。