読書感想: 愛なき世界
- 著者: 三浦しをん
- 読んだ感じ: 1.5 (1-3)
- 読んだ時期: 2024年8月
大学で植物学の研究に没頭する大学院生の女子 (本村) と、その研究室が贔屓にしている近所の洋食屋の男子 (藤原) を中心とした、研究室の日常を描いた小説。
タイトルからして、何かシリアスな内容かと思っていたら、全然そうではなかった。愛という感情を持たない植物に魅了され、植物研究に人生を捧げている本村から見た世界がタイトルになっている感じ。
東京大学のある研究室がモデルになっているらしく、自由闊達な雰囲気の中で和気あいあいとしながらも、真摯に真理を探求する研究者の日常風景が描写されている。大学研究室のゆるい雰囲気がよく表されている感じはするのだが、大学関係者でもなんでもない、いち洋食屋の藤原と、本村をはじめとする研究室メンバーとの人間関係が密接過ぎて、いやそんな関係にはならんやろ というリアリティのなさを感じた。実際にはあるのかもしれないし、屈託なく本質をついてくる藤原の魅力も小説中で十分に表現はされているのだが、僕が過ごした研究室の風景を鑑みるに、出入り業者に実験風景を実際に見せてあげたり、あわや恋愛関係になりそうになるような可能性は見出されなかった。
研究室のボスである松田が、ある出来事をきっかけに、学生時代に経験した親友の死を本村に打ち明ける場面があり、大変グッと来たのだが、話の本筋である本村と藤原の関係性には何ら関わりがないので、このあたりでちょっと感動する場面を作っておくか的な、唐突に差し込んできた感を感じてしまった。
一方で、本村が実験で致命的なミスを犯してしまったときに、「計画通りに実験を進めて予定通りの結果がでて、それの何が面白いの?」と本村を励ます松田の姿はかなり格好良かった。
上記のような点から、ちょっと現実離れしている本村と藤原の関係よりも、松田と本村との師弟関係を話の中心に置いたほうが、展開としては地味になるだろうけども、リアリティがあって面白いのではなかろうかと思った。
途中、本村の研究内容がかなり詳しく説明されているのだが、物語の展開を理解するために必要であるとはいえ、内容があまりにも細かく長いので、7割位読み飛ばしてしまった。
登場する研究者はみな純粋に科学を追い求めており、翻って自分の大学生活を振り返ると、つくづく自分は研究者に向いてない人間だなと改めて思い知らされた。