• 著者: 雫井脩介
  • 読んだ感じ: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2024年9月

 

神奈川県警の特別捜査官である巻島が、メディアを駆使して公開型捜査を行う小説の3作目。2作目を読んでいないのだが、2作目で起きた誘拐事件の主犯格である淡野を捕まえるために、今回はネットTVで公開捜査を行う。1作目の最後に、巻島が死にかけていたので、もしかしたら死んだのではと思っていたのだが、作品が好評につき、生きていたようだ。

 

淡野は大変頭の良い犯罪者であり、警察の目を逃れながら、高齢者を対象にした証券詐欺みたいなので日銭を稼ぎつつ、大きな犯罪の機会を伺っている。彼は別に優しい人間でもないのだが、人間的な魅力があり、なぜか集まってきた何人かの協力者がいる。その協力者はちょっと心に傷を持つ一般人で、そういう一般人の好意に預かりながら犯罪に手を染める淡野の描写が印象的だった。

 

実行犯である淡野は、過去の成り行きで「リップマン」と呼ばれているのだが、彼の上には金主と呼ばれる犯罪の親玉がいて、「ワイズマン」と呼ばれている。実はワイズマンは、公開捜査が行われているネットTVを運営する会社の社長 (イメージはサイバーエージェントの社長) であり、表向きリップマンの捜査に協力する姿勢を見せながらも、裏で捜査一課が裏金を隠し持っているという不祥事を掴んでいて、その情報をネタに捜査一課を脅迫するというとんでもない行動を起こしている。

 

1作目で巻島にジャイアン的振る舞いを見せた本部長の曽根は、現在も同じポジションにいながら、数年後には定年を控えていて、警察実務よりもセカンドキャリアのための人脈形成に片足を突っ込んでいる。

 

1作目でもそうだったのだが、本作も同じように、警察側と犯人側が、お互いに傷を負いながら戦う感じになっているのが印象深い。巻島はリップマン逮捕のために捜査一課の裏金事件をネットで公開せざるを得ない状況に追い込まれ、淡野はそのために逃げ場を失い、結局ワイズマンの刺客に殺されてしまう。

 

上記ワイズマンと、ワイズマンの協力者である警察官のポリスマンは作中では捕まっておらず、またワイズマンと曽根の関係もそこまで踏み込んだ描写もされていないため、次回作を匂わせる感じの終わり方になっている。ワイズマンが曽根を脅迫して警察官とズブズブになっていくような闇展開があるかもしれない。