読書感想: クジラアタマの王様
- 著者: 伊坂幸太郎
- 読んだ感じ: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2024年9月
クジラアタマの王様とは、ハシビロコウの名前の由来であるらしい。
菓子メーカーの広報部で働く岸は、たまたま見かけたハシビロコウの写真に何とは無しに違和感を覚えた後、面識のない議員である池野内から、「自分は夢の中でお前と会ったことがある」と言われ戸惑う。池野内によると、この二人に著名なダンスグループのアイドルである小沢ヒジリを加えた三人は、夢の世界においてチームを組み、凶暴な怪物と戦う日々を送っているのだという。現実と夢はお互いに影響を及ぼし合っていて、現実世界で困難な場面に出くわすと、夢の世界に怪物が現れて、その怪物を倒すと現実世界の問題も解決する みたいなことになるらしい。
誰もが一度は思ったかもしれない、今生きているこの世界は実は夢で、夢で見る世界が現実なのでは? という疑問を物語のテーマにしている感じで、面白いのだが、現実と夢はお互いに影響しあうにしても、あくまでも結果だけが影響しあっているのであって、世界そのもの同士が交錯する感じではない。現実はあくまでも現実として進行していくので、夢は物語の冒頭で岸、池野内、小沢ヒジリを現実世界で結びつけるきっかけを作った後はそんなに物語に影響を及ぼすことはなく、いわゆる伏線が貼られているわけでもなく、出オチ感を感じた。
物語の終盤で、新型インフルエンザが世界で大流行しかける という事態が発生するのだが、日本での第一感染者を、海外から日本に害悪ウィルスを持ち込んだ犯罪者のごとく扱い、インターネット状で個人の個人活動が始まるという、コロナウィルス発生初期の事態とそっくりな描写がされているのだが、本小説が出版されたのが2019年7月であり、コロナウィルスによるパンデミックを予知したとしか思えない絶妙のタイミングであったことが何よりすごい。
岸が所属する広報部の部長は、過去の栄光でマウントを取り、顧客開拓イコール接待という短絡的思考を持つ、典型的な昭和のダメなオッサンであり、その嫌な感じが物語の序盤で遺憾なく発揮されるのだが、何故かわからないが読み進めるうちにちょっと憎めない感じになっていくところが良かった。