読書感想: 犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼
- 著者: 雫井脩介
- 読んだ感じ: 2 (1-3)
- 読んだ時期: 2024年11月
砂山知樹はごく普通の大学生活を送り、横浜の老舗菓子メーカーであるミナト堂に就職する予定であったが、卒業直前のタイミングで、ミナト堂の賞味期限詐称問題が発覚し、急激な業績不振に陥ったことにより、内定が取り消され、そこから道を踏み外して、振り込め詐欺に加担するようになった。知樹の弟である建春は、高校時代から不良であり、定職につかずブラブラした後、知樹と一緒に詐欺グループに入った。
ある日、神奈川県警の特別捜査官である巻島によって詐欺グループが一斉検挙された。偶然検挙の場におらず逮捕を逃れた砂山兄弟は、しばらく身を潜めて生活していたが、詐欺グループのブレーン的な存在である淡野から、誘拐ビジネスを持ちかけられる。人生をやり直すためにまとまった金を欲していた知樹は、最初は半信半疑だったが、淡野の話を聞くうちに心を動かされ、誘拐のターゲットがミナト堂の社長親子であることを知り、金と復讐のために、淡野の犯罪に加担することを決める。
淡野によると、日本で誘拐が成立しないのは、誘拐された人物との間に信頼関係が醸成されていないからであるらしい。過去の日本における誘拐事件では、誘拐犯が身代金の受け渡しに失敗した結果、人質を殺してしまう結末を迎えたものがあり、身代金を払えば人質が確実に解放される という確証を、被害者側が持つことができていない。逆にいうと、一度誘拐事件で身代金と引き換えに人質が安全に解放されるという実績を作れれば、被害者は警察に協力を仰ぐよりも犯人と直接交渉して身代金を払ったほうがメリットがあると考えるようになる。淡野の犯罪計画は誘拐ビジネスのファーストペンギンを担うものである。
上記のような考えのもと、淡野と砂山兄弟は、まずミナト堂の社長である水岡と、その息子を誘拐し、別々の場所に拘束した後、社長のみを解放し、その後社長と直接、息子解放のための身代金受け渡しの交渉をしていく。水岡を拘束したのは、身代金の交渉相手と直接対峙することによって、犯人側の意図を確実に伝え、身代金を受け取れれば息子を解放するという信頼関係を構築するためである。
水岡の拘束中に、淡野は水岡に自分の意図を伝えることに成功する。水岡は解放された後、警察にウソの要求を伝える裏で、秘書の黒田とともに、会社から裏金を捻出し、身代金の受け渡し準備を進める。
水岡は、息子の安全のためには身代金を支払うことが得策であることを明確にする一方で、犯罪に加担し、誘拐ビジネスを世にはびこらせるきっかけを作ることに躊躇する。その躊躇には、従業員が血のにじむような努力をして得た会社の利益を横領する罪悪感と、将来的に犯人グループが捕まったときに事実が明るみにでることへの恐怖も入り混じっている。
事件の指揮を取ることになった巻島は、水岡の微妙な心理状態から警察を欺いていることを、身代金受け渡し手続き直前で見抜き、淡野と砂山兄弟を少しずつ追い詰めていく。2回目の身代金手続きでは、犯人側、警察側、人質側がそれぞれ相手の裏の裏をかくような動きをして、面白かった。
「犯人に告ぐ」シリーズの2作目だが、1作目のような劇場型の公開捜査はされない。巻島が犯人に告げるのは砂山兄弟が警察に逮捕される直前で、巻島が砂山知樹にかける言葉は結構ぐっとくる。