• 著者: 今村翔吾
  • 読んだ感じ: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2025年6月

 

戦国時代末期の、大阪夏の陣、冬の陣あたりにおける石垣職人の話。

 

飛田匡介は、幼い頃に朝倉義景と織田信長との戦に巻き込まれて両親および妹と離れ離れになり (多分全員死んでしまった)、一人で逃げているところをある男に助けられ、息子として育てられた。その男は飛田源斎といい、石垣職人の集団である穴太衆の頭目だった。匡介は、石と意思疎通ができる感じの特殊能力を有しており、それに気づいた源斎は匡介を自分の跡取りとして育てる。

 

穴太衆の石垣は大砲でも崩れることのない頑強さを持っていて、その技術は全国の大名から高い信頼を得ている。彼らは普段は、新造・改築される城の石垣を作っているが、まれに敵に攻め込まれた城に乗り込んで、前線で石垣を直したり作り変えたりする工兵的な仕事をすることがある。この仕事は命がけで、「懸」と呼ばれていた。

 

匡介が30代になる頃に、秀吉が死に、豊臣秀頼と徳川家康の覇権争いが勃発する。匡介は自身が数年前に石垣の改修を行った大津城の城主である京極高次に頼まれて、懸を発動し、戦に参加する。相手側である西軍には、鉄砲や大砲の職人集団である国友衆がついていて、最強の楯である石垣と、最強の矛である鉄砲・大砲とが大津城で激突する。

 

結構な長編小説だが、紙面の半分以上を大津城での戦いが占めている。特に穴太衆と国友衆を中心に描かれていて、石垣と鉄砲大砲とがめくるめく攻防を繰り広げるのだが、最終的に、国友衆が投入した超射程最強大砲による攻撃を、穴太衆が砲撃の合間を縫って石垣をその都度補修していくという激熱展開になる。一進一退の攻防の様は、エヴァンゲリオンにおけるヤシマ作戦を彷彿とさせるものであり、ただの弱腰大名だと思っていた京極高次が民のために命を賭ける胸熱展開と、匡介が密かに思いを寄せる侍女の夏帆との胸キュン展開と、匡介よりも早くに源斎に師事し、当初は匡介を目の敵にしていたものの匡介の才能を素直に認め、命をかけて匡介に石を届ける玲次との魂の友情と、匡介最大のライバルである国友衆の鬼才、彦九郎との魂の対話などが相まって最高潮のクライマックスを迎えた後、戦の後の静けさとともに小説が終息していく。

 

技術、技能を生業にする職人の、自由さと不自由さみたいなのが共存していて、電池職人である自分の境遇に身をはせながら読んだ。