読書感想: 闇に香る嘘
- 著者: 下村敦史
- 読んだ感じ: 1.5 (1-3)
- 読んだ時期: 2025年6月
70歳になる村上は目が見えない。戦時中に家族と満州に移住し、戦後の満州で強制収容されてひどい生活をし、その際の栄養失調が原因で40代で失明した。村上には兄がおり、この兄は満州から日本に帰る道中で生き別れた後、30年ほど前に日中の国交回復により日本に帰国した。
村上の孫娘は腎臓に疾患があり、根本治療は臓器移植しかない。村上の腎臓は状態が悪く提供することができなかったため、兄に臓器提供を依頼したところ、頑なに拒否される。これまでも兄には幼い頃の記憶に合わない冷酷さを感じることがあり、村上は兄が国交回復のドサクサに紛れて日本にやってきた偽物なのではないかと疑い始める。兄が本物かどうかを確認するために色々な人に会いに行っていると、車に轢かれかけたり家に勝手に侵入されたりときな臭い出来事が次々に発生し、最終的に孫娘が誘拐されるという事件に巻き込まれながら、家族にまつわる真実が明らかになるという感じの話。
目が見えない人間の周りで起こる出来事がミステリーの要素になっているのだが、個人的には何となくじれったかった。また、兄の出自を調べるという民事的な活動をしていたところに、急に孫娘の誘拐という刑事的な事件が発生するという展開の唐突さが気になった。最後の数ページでネタバラシ的な会話がなされるのだが、読者にわかりやすく説明しすぎていて興醒め感があった。
また、本の表紙に江戸川乱歩賞受賞作であることが書かれており、かつ冒頭に受賞にあたっての著者の喜びの言葉が描いてあるのだが、これもステマ感があり好きになれなかった。