• 著者: 伊集院静
  • 読んだ感じ: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2025年6月

 

明治維新直後に、江戸時代に名主だったものの没落しつつある家の4男として生まれ、養子に出されて育った夏目金之介は、義務教育を終えたら自分を働きに出させるつもりだという養父の言葉を偶然耳にし、勉学に勤しんだ結果、一高校および東大で秀才の名を轟かせ、その後色々あって英語教師になり、評判の良い授業を行って日本学生の英語力を高めた後に、妻と友人の後押しで小説家となり、超絶ベストセラーとなった吾輩は猫であるを皮切りに勢力的に執筆活動を続けるも、体を壊して49歳で死去する、夏目漱石の人生を描いたもの。

 

夏目漱石が小説家となったのは40歳くらいで、自分はミチクサをしながら生きてきた と本人は思っているのだが、昔の基準はともかく現代社会の基準で見れば特にミチクサを食った感じもなく、若干の違和感を感じたが、正岡子規、高浜虚子や寺田寅彦との友情や、妻の鏡子との夫婦生活が温かく書かれていて、ほのぼのしながら読んだ。

 

昔は人が若くして死ぬことが割と当たり前の時代でもあり、漱石も2人の親友 (正岡、米山) や五女を失う。そんなときの残された側の人間の感情はサラッとしており、後ろを振り返らない感じが何となく羨ましかった。

 

漱石が生きた時代には、ちょうど日清戦争や日露戦争のまっただ中であり、全国民が収入の1割を軍事費として国に収める強制徴収が行われているような状態なのだが、漱石の周りはいつもほのぼのしており、自国が戦場にならない戦争が起こっている国民の心境が何となく忍ばれる。