• 著者: 佐藤究
  • 個人的な印象: 2 (1-3)
  • 読んだ時期: 2025年9月

 

幼い頃からジェット機に取り憑かれていた易永透という少年が、自衛隊に入隊して凄腕の戦闘機パイロットになったが、護国とは何かということに答えを見いだせないままひたすら戦闘機に乗りまくる毎日を過ごした結果、ある日突然戦闘機に乗れない体になってしまい、自衛隊を除隊した後、タイやバングラディシュで遊覧飛行機を飛ばすなどして場末感の漂う毎日を過ごしていたところ、誰にも知られずにジャングルに不時着した最新鋭戦闘機の噂を聞きつける。

 

透はただひたすらにしがらみのない空を自由に飛びたいという欲求を持っているのだが、それを可能にするはずの戦闘機には、国家や領土といったしがらみがまとわりついていて、それが透を苦しめる。自分の人生に決着をつけるために、あらゆる犠牲を払ってジャングルの戦闘機を修復し、搭乗する透の生き様が脆くもあり美しくもある。

 

透と同じく飛行機に取り憑かれながら身体的制約でパイロットになる人生を閉ざされている高校時代の友人、透のように訳あって第一線を退いて場末で暮らす天才航空エンジニア、何の希望もないスラムでパイロットになることを夢見て透にまとわりつくバングラディシュの少年 (以上全員名前忘れた) など、魅力のある人物が多数登場する。

 

文章は冷徹で淡々と描かれているが、戦闘機の操縦やバングラディシュのスラムの様子など、場面の描写がとにかく細かくて、それが透の狂気、空への執着みたいなものを浮き彫りにさせていく感じが好きだった。