祖父のこと
僕には92歳くらいになる祖父がいる。
自分でいうのも何だが、僕は祖父にかなり愛されている。同世代の男性はみんなそうだと思うが、祖父は昭和気質の家族像を強固に持っている人物で、祖父には男子の子供がいなかったことなどがその背景にある。
祖父は特攻隊の生き残りである。16歳くらいで志願して特攻隊に入隊し、数日後に出撃するというところで終戦となり、無念の想いで帰郷した。今となっては、あれは本当に幸運だったと言っている。
その後、来るべき車社会を予見し、国道建設が見込まれる土地を購入する、団地の近くに駐車場を建設するなどの事業によって、それなりの財産を築いたらしい。
そんなアントレプレナーシップあふれる祖父と、小学生のときに風呂に入った際、「今学校でどんな歌を習ってるのか、歌って聞かせてみい」と言われ、「飛べ飛べとんび~」の歌を歌わされたのち、「俺が好きなのはこの歌だ」といって、大音量で謎の軍歌(起きろ起きろ皆起きろ~起きんと曹長さんに叱られる~ みたいなやつ)を聞かされたのは、今となっていはいい思い出である。
そんなアントレプレナーシップあふれる祖父から、前の会社の創業時に、自社株に出資しようと思い金を借りようとしたところ、頑なに拒まれたのも、今となってはいい思い出である。
ちなみにその際、金を貸してくれたのが父親であり、父親の懐の深さを再発見したのも、今となってはいい思い出である。
そんな感じで生き続けた祖父は、一昨年の夏ごろに熱中症にかかり、自分で歩けなくなるまで憔悴したことがあった。その時は死を覚悟したらしく、僕が実家に帰ると、僕の顔を見た瞬間、顔を覆って泣いた。あんな祖父をみたのは生まれて初めてだった。人生の奥行きを感じた。
そういうことがあったので、祖父はついに父親に家計を任せることになったのだが、その後再び体調が回復し、またアントレプレナーシップが湧き出しているようにも見え、いいことなのか悪いことなのかよくわからない。